※多くの合併症を網羅していますが、個人差が大きく、全て当てはまるわけではありません。実際はそれぞれの人がその一部を持っているに過ぎません。
※これらの疾患は、身体の特徴とは違い、健康を害するものなので、予防・治療が必要です。
※発生頻度は、調査によって結果が異なりますので、あくまで目安です。
※気になる症状がある場合は、自己判断はせず、必ず専門医にご相談ください。
気をつけたい合併症
【哺乳】
約半数に生後1年間に哺乳上の問題が生じます。主に嚥下困難(飲み込みずらい)、嘔吐がみられます。多くの場合、治療は必要ありません。
(母の声:一晩に何回もシーツを交換したのは、今となって笑える思い出です。)
【中耳炎・難聴】
◆中耳炎◆
中耳炎はターナー症候群の児童が最も気をつけなければならない合併症です。
「滲出性(しんしゅつせい)中耳炎」を長く放置しておくと、鼓膜に穴があく「慢性中耳炎」になったり、鼓膜が動かなくなる「癒着性中耳炎」になったりして聴力が回復しない危険性もあります。
また、まれに「真珠性中耳炎」を発症することもあります。真珠腫は、めまい、内耳炎、顔面神経麻痺などの合併症を起こすこともあり、注意が必要です。
再発性中耳炎(滲出性・慢性)の発生頻度は、
45,X=74%
モザイク・構造異常=56%
◆難聴◆
小児期は中耳炎による「伝音性難聴(音が伝わりにくい)」が多く、成人になると「感音性難聴(音を感じにくい)」が多くなります。感音性難聴は、予防はできませんが程度は軽いようです。
難聴の発生頻度は
45,X=32%
モザイク・構造異常=15%
母親由来のX染色体を持つ場合と、父親由来のX染色体を持つ場合とでは、聴力障害の発生頻度は変わりません。
(父の声:中耳炎予防のために鼻水が出始めたら耳鼻科へGO!)
(母の声:乳幼児期は特に中耳炎になりやすいので、家庭でも使える鼻水吸引機『メルシーポット』などを活用するのもいいかもしれませんね。相当吸引してくれますが、その分嫌がりますけど.........)
【骨粗鬆症(こつそしょうしょう)】
骨量は、小児期では正常値とあまり変わりませんが、思春期以降、成人では正常値より約25%低くなります。
45歳以上では骨折率が明らかに高く、55歳では骨折の頻度が一般より10倍高くなります。
低年齢より成長ホルモン補充を始めれば、骨量の正常化も期待できます。また、骨量の維持には長期のエストロゲン補充が重要です。
(父の声:小児期から思春期のカルシウム摂取や運動習慣も大事です。)
【糖尿病】
年齢の増加とともに耐糖能低下を示す例の割合が増加し、思春期以降においては著しく増加します。
肥満度の上昇とそれに伴うインスリン初期分泌の低下から、耐糖能低下をきたしやすく、Ⅱ型糖尿病が多くなっています。
デンマークでの調査だと発生頻度は16~25%です。
(父の声:過度の渇き、空腹、多尿、原因不明の体重減少があると要注意です。食生活や運動の面から生活習慣を整え、肥満にならないようにすることが大事です。)
【甲状腺疾患】
甲状腺機能低下症になると、無気力になったり、体重が増加することがあります。若年では約10%に合併しますが、高齢者では50%にも達します。特に橋本病(慢性甲状腺炎)が20~30%にみられます。
(父の声:エネルギー低下、便秘、しゃがれ声、皮膚乾燥、寒がり、予測を下回る成長が徴候です。症状の有無にかかわらず定期的な検査が必要です。)
【高脂血症】
高コレステロール血症と、高トリグリセライド血症というものが高頻度で生じるという報告があります。
(母の声:女性ホルモン補充療法が重要なので、適切な時期から継続して実施しましょう。)
【腎疾患】
馬蹄腎・重複腎盂尿管・回転異常・異所性腎・無形成腎などの先天的な腎の構造異常の合併頻度が高くなっていますが、腎機能に問題がないことなど予後は比較的良好なことが多いです。
馬蹄腎・異所性腎の場合、尿管で部分閉塞が生じることもあるため、尿路感染症や悪心、嘔吐、腹痛、遺尿症、血尿、腹部腫瘤が問題となります。腹痛は前屈姿勢で消失することがあります。
腎疾患による高血圧がみられることもあります。
治療のいらない微少血尿もよくみられます。
腎奇形の発生頻度は
45,X=33~43%
45,X/46,XX=16%
(父の声:血尿や蛋白尿がみられる場合は検査した方がいいです。エコー検査で分かる場合が多いので、違和感がある場合は積極的な検査をお勧めします。また、当初は異常が無くても、経過中に症状をきたすこともあるようなので、定期的な検診が必要です。)
【高血圧】
多くは腎血管性高血圧ではなく、原因疾患のない本能性高血圧です。
発生頻度は
45,X=22~27%
45,X/46,XX=7%
(母の声:高血圧の場合、女性ホルモン補充療法で使用するエストロゲン製剤を貼り薬にすることが推奨されています。)
【心疾患】
先天的な心疾患として、大動脈縮窄がよくみられます。心雑音やチアノーゼなど新生児期にターナー症候群と診断がつくこともしばしばあります。特に45,Xで翼状頸を持つ場合、発生頻度が高くなります。モザイク型は肺動脈狭窄が多いといわれています。
後天性の心疾患として気をつけたいのは大動脈拡張です。大動脈の壁が破れて、大動脈解離という状態になると危険です。大動脈解離を起こす人の80~90%は危険因子(大動脈縮窄症、大動脈ニ弁、大動脈弁の狭窄や逆流をもともと持っている、高血圧)を持っているようです。強い胸痛や背部痛を感じた時は大動脈解離か大動脈癌のおそれがあるので要注意です。
また、虚血性心疾患もみられます。要因である高血圧、糖尿病、高脂血症の予防及び治療を行うことが大切です。
心疾患系奇形の発生頻度は、
45,X=10~35%
45,X/46,XX=6%
(父の声:成人期では3~5年ごとに超音波検査を行う必要があります。)
【消化器疾患】
肝機能異常を認めることが多いという報告があります。潰瘍性大腸炎、クローン病、原因不明の下痢、胃腸出血もみられます。
(母の声:肝酵素の上昇がみられる場合、女性ホルモン補充療法は貼り薬が勧められています。)
【視力】
眼瞼下垂は11%、斜視は17.5%に認められますが視力障害は起こさないことが多いといわれています。
【腫瘍】
ターナー症候群の一部の核型になりますが、Y染色体を有する場合、性腺に腫瘍(主に性腺芽細胞腫)ができる危険性が高くなります。それ以外は悪性腫瘍になりやすいという報告はないようです。
性腺芽細胞腫自体は良性腫瘍で転移しませんが、周囲の組織を侵したり、悪性の生殖細胞性腫瘍を引き起こすことがあります。
Y染色体を有する場合の性腺腫瘍の発生率は思春期から急増し、成人年齢では索状性腺が両側性のときも片側性のときも10~20%程度と推測されています。思春期から急増する理由としては、FSH(卵胞刺激ホルモン)に腫瘍発生促進効果があることが考えられています。