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※発生頻度は、調査によって結果が異なりますので、あくまで目安です。

※自己判断はせず、必ず専門医にご相談ください。

※生殖医療は日々進歩しています。時々最新情報を入手するように心がけてください。

※さらに詳しい内容はこちら(ブログ:ターナー症候群を知ったその日から

妊娠・出産①(基礎)

【卵巣機能】

通常、卵子の基となる「原始卵胞」は胎児期に作られ、妊娠5~6ヶ月には約700万個、出生児には約100万個を持って生まれてくると言われています。その原始卵胞は年齢を重ねるにつれ減少し、初経を迎える頃には30万個50歳頃には1000個未満になり閉経するのが一般的です。

 

ターナー症候群は卵巣機能不全のため、女性ホルモンと卵子をつくりにくい体質です。卵巣は胎生14~18週までは正常に発育しますが、その後原始卵胞が急激に減少します。出生時点で既にかなりの原始卵胞が減少していると考えられています。

 

排卵がある場合は20歳頃まで原始卵胞が残ることもありますが、いつ消滅するかには大きな個人差があります。原始卵胞は、成人のモザイク型の約50%に、非モザイク型(モザイクではない45,X型や構造異常型)の5~7%に認められるという報告があります。

卵巣が有する潜在的な能力のことを「卵巣予備能」と言いますが、卵巣予備能の評価で有名なものには「AMH値」と「FSH値」があります。どちらも血液検査で簡単に測定できますが、AMH値の測定は保険適用外です。

AMH(抗ミュラー管ホルモン)とは、原始卵胞が成長した一次卵胞・二次卵胞・前胞状卵胞を取り囲む顆粒(かりゅう)膜細胞から分泌されているホルモンのことです。原始卵胞の在庫を現しているわけではなく、在庫から供給されている卵子の数を示しています。高いほど良いというわけではありませんが、測定値が同年齢の中央値に比べ著しく低い場合は、卵巣予備能が低下していると言えます。ただし、個人差が大きく(統計的に正規分布をなしていません。)、測定ごとに数値の上下がとても大きい検査なので、評価するためには複数回の測定が必要となります。また、卵子(卵胞)の数と質は別問題なので、AMH値=妊娠率ではありません。

​FSH(卵胞刺激ホルモン)とは、未成熟の卵胞を成長させるためのホルモンです。卵巣機能が低下しているほど卵巣を刺激するためより多く分泌されます。そのため測定値が同年齢の中央値に比べ著しく高い場合は、卵巣予備能が低下していると言えます。

45,X/46,XXモザイク女児の77%45,X女児の10%にAMHが検知されたという報告もあります。また、成長ホルモン投与によってAMH値が高くなる可能性も示唆されています。

スウェーデンの報告によると、「モザイク型」+「思春期の自然発来」+「血中のAMH値とFSH値が正常」という状態であれば原始卵胞が残存している可能性が比較的高いようです。特にAMH値が1.12ng/ml以上あれば卵巣機能が認められる可能性が示されています。

イスラエルの報告によると、卵巣組織凍結保存を試みた18歳以下のターナー女児の治験者でAMH値0.16ng/ml以上かつFSH値20mIU/ml以下の場合、全例で原始卵胞が見つかったそうです。

AMH値とFSH値のどちらの方が卵巣予備能を示しているかについては、年齢にかかわらずAMH値の方が信頼度が高いという報告があります。

 

そのの女性生殖器(卵管、子宮、膣または産道)は正常に機能する場合が多いです。

【卵子の核型】

オランダの報告によると、モザイク型のターナー女児から卵巣を取り出し、卵胞内の細胞の核型を調べたところ、多くの卵子は46,XXの正常核型だったようです。

 

しかし、卵胞を取り巻く顆粒(かりゅう)膜細胞や莢(きょう)膜細胞は45,Xとのモザイク核型を示していました。顆粒膜細胞と莢膜細胞は、脳からのホルモンや卵子からの信号を受けて、卵子に生理活性物質を供給するため、それらの細胞が正常核型ではないことが、卵子の成長を阻害する可能性も考えられます。

(一般女性においても、顆粒膜細胞は加齢とともに減少することが分かっています。そのことが卵子の老化の一因となっています。)

なお、血液・尿・口腔内の細胞検査から、卵子・顆粒膜細胞・莢膜細胞の核型を予想することはできません。

【自然妊娠】

自然な二次性徴がこなかった場合、原始卵胞がほとんど認めらないため、自然妊娠・出産は不可能と考えられています。

自然発来二次性徴をきたす症例の2~5%が卵子提供なしに妊娠するという報告があります。フランスの報告によると、45,Xの場合は1%程度、45,X/46,XXモザイクの場合は20%程度が自然妊娠の可能性があるようです。しかし妊娠可能な期間は通常より短く、多くは24歳までです。

流産の頻度が高く、染色体異常の発生頻度も高いことが懸念されています。29%が流産、7%が周産期死亡、20%に奇形が認められ、ダウン症が6%、結果として正常児を無事に出産できたのは38%に過ぎなかったという報告があります。

 

誕生児のうち先天性疾患を持つ割合は28%だったという報告もあります。ここでいう先天性疾患とは、染色体異常、心疾患、脳神経疾患、口蓋裂、白血病など入院や手術が必要なものです。報告によると、先天性疾患を持つ児の20%は生後4ヶ月以内に亡くなっています。

 

先天性疾患の発生率は、核型による違いはあまりなく、モザイク型でもほぼ同確率です。一般的な誕生児が同程度の先天性疾患を持つ確率は0.1%以下と言われています。

帝王切開、妊娠高血圧症などの合併症も多いですが、ドナー卵子を用いた場合の妊娠より妊娠経過が良好といわれています。

【卵子提供】

自然妊娠が難しい場合は、卵子提供による体外受精という方法があります。

体外受精胚移植による妊娠率は24~47%(他の不妊女性と同率)、生産率(児が生きて産まれる率)はその60%程度という報告があります。胚を移植する子宮内膜の準備のため、高用量の女性ホルモン補充が必要です。

ドナー卵子では妊娠率は高いですが、合併症が多くなります。何の問題なく出産に至るのは40%程度、妊娠高血圧35~38%、母子死亡2.4%、生命の危機を経験3.3%、早産8.0%、低体重児8.8%、胎児奇形3.8%という報告もあります。

【未受精卵子凍結保存】

卵子提供は、ターナー症候群の女性が妊娠・出産するための最もポピュラーな方法ですが、遺伝的な繋がりが希薄になるというディメリットも否定できません。その場合、未受精卵子凍結保存という方法があります。

ターナー症候群の女性も採取可能な卵子があった場合、未受精卵子凍結保存は可能です。ただ採取できる可能性は高くはありません。これまでは思春期以降にしか実施できないと考えられてきましたが、2020年に初潮前の7歳児の卵子凍結を実施したという報告がありました。

 

自身の染色体が不安定なため、自然妊娠と同様、流産・死産や先天性疾患を持つこと多く、正常児を無事に出産する確率は高くはないと推測されます。

 

先天性疾患のうち約6割をターナー症候群やダウン症候群などの染色体異常が占めるため、欧米では「着床前診断(PGT-A)」を勧める医師もいるようです。着床前診断により、着床率を高め、流産率を下げることが期待されています。残念ながら国内で着床前診断を行っている医療機関はわずかですが、受精卵から取り出したDNAを海外に送り着床前診断を行うエージェントも存在します。

受精卵ではなく卵子のみで染色体や遺伝子の欠陥が分かるようになる研究が進められているので、将来的には倫理的な問題(受精卵を生命と見なし、それを選別すること)がクリアーになることが期待されています。

39歳以下の一般女性の凍結卵子1個あたりの出産率が6.5%という報告を基に計算すると、一般女性が出産に必要な凍結卵子数は16個前後です。ただし、ターナ症候群の場合は染色体異常卵子の割合が一般女性よりも高いため、それ以上の個数が必要になると思われます。

 

凍結技術が確立されているので、保存期間による出産率の違いはありません。

残存原始卵胞の減少を食い止めるため、ピルを長期処方する方法もあるようです。実施にあたっては必ず専門医と相談して下さい。

未受精卵子保存ができる医療機関は69施設です(2017年4月時点)。

【卵巣組織凍結保存】

未受精卵子凍結保存と同様に遺伝的な繋がりを持つ手段として、早発卵巣不全になる前に卵巣組織を凍結保存する手法があります。

 

ガン患者の放射線治療などによる不妊の回避のために1997年に海外で始めて凍結保存が行われ、2004年に初めて凍結保存・融解移植による出産に成功し、2021年までに200以上の出産例があります。

生児獲得率は、37.7%(2017年報告)22.7%(2018年報告)41.7%(2020年報告)57%(2020年報告)と報告により大きく差がありますが、決して低い数字ではありません。

 

ターナー症候群の方も2019年までに100例以上凍結保存されていますが、融解移植した例はなく、現在のところ出産の報告はありません。

国内では2006年に初めて凍結保存が行われ、ここ数年では年間30~60例ほどが凍結保存を実施しています。原疾患の内訳をみると、乳ガン患者が大多数を占めますが、ターナー症候群の中にも凍結保存されている方がいるようです。

思春期前から実施することも可能(海外では生後5ヶ月で実施した例あり)で、未受精卵子を保存する方法に比べて保存できる生殖細胞の数が圧倒的に多いことがメリットです。卵巣摘出手術が必要になりますが、卵子凍結に比べ日数が掛からないことや、思春期に採卵を行わないことから羞恥が少ないことも利点と考えられています。

 

ただし卵巣組織は、凍結融解のストレスにより70%の卵子(原始卵胞)が死滅してしまうため、残存卵子数が多い若年ガン患者に推奨されています。

 

また、この手法を活用できるのは原始卵胞が残っている場合に限られます。原始卵胞が残存しているかどうかは、血中のAMH値や核型である程度予測はできますが、確定するには卵巣を摘出して調べてみないとわかりません。

自然妊娠や未受精卵子保存と同様に、自身の染色体が不安定なため、流産・死産や先天性疾患を持つこと多く、正常児を無事に出産する確率は高くはないと推測されるため、欧米では「着床前診断」を勧める医師もいます。

卵巣組織凍結保存ができる医療機関は49施設です(2021年3月時点)。ただし、ターナー症候群を受け入れている施設はわずかです。

【流産】

一般妊婦の流産率が約15%であるのに対し、ターナー症候群の妊婦の場合は自然妊娠、卵子提供ともに高く、約30~40%と考えられています。

 

原因ははっきりしませんが、①染色体異常卵子の多さ(自己卵子の場合)、②女性ホルモンに対する子宮内膜の反応不良、③子宮内腔の形状異常が推測されています。

①については、着床前診断で解決できます。

②については、女性ホルモンの投与法、投与量を工夫することである程度解決できると考えられます。

③については、統計的な有意なデータはありませんが、子宮因子が関与しているという報告があります。特に中隔子宮であった場合の流産率は70~80%であるので、体外受精-胚移植などを行う際は、子宮内腔の形態についても調べた方がよいと思われます。中隔子宮は、子宮鏡下手術をすることで流産率が低下し、出産率が高くなるという報告があります。

【出産】

低身長のため帝王切開になることが多く、稀に大動脈解離による突然死の報告もあるので、心血管系の合併症がある場合は特に注意が必要です。現代の一般的な周産期死亡率が0.01%以下であるのに対し、ターナー症候群の妊娠において大動脈解離での死亡率は2%という報告もあります。

(父・母の声:心臓に合併症がある場合は生命の危機に瀕することもあります。特に着床の確率を上げるために複数の胚を移植することは危険です。体外受精-胚移植を検討する場合は身体的リスクを専門医に必ず相談して下さい。また、不妊治療や卵子提供などは高額な費用も掛かります。将来的には今以上に子供を産まない女性も多くなり子供を持つ人生が当たり前ではない社会になっているので、無理はしないでください。どうしてもお母さんになりたい場合、養子や里子という選択肢もあります。何よりも自分自身の健康を優先させてください。)

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