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満員電車に乗る赤ちゃん


満員電車の中に赤ちゃんが乗っている。

もちろん一人で乗っているのではない。母親か父親に抱っこされている。なんでそんな満員の電車に赤ちゃんを乗せるんだと、お怒りの方もいるだろうが、それは筋違いである。赤ちゃん本人も、その両親も好き好んでわざわざ空気が悪く、狭苦しい満員電車など乗らない。

近くの保育園に入園できずに、遠くの無認可保育所に通うためにやむを得ずに満員電車に乗っている場合がほとんどだ。なぜ近所の保育園に入園できないかというと、入園希望者が殺到しているからだ。何も近所にある保育園がスーパーキッズを育成する英才教育を行っているわけではない。近所の保育園は、無認可保育所よりも費用が掛からない単なる認可保育園に過ぎない。

特に東京では待機児童はもう何年も問題になっており、自治体も対策を講じているが、都市部には認可保育園の基準を満たすほどのまとまった敷地はあまりなく、どうしても需要に供給が追いつかない。

それならば、多少高くても近所の無認可保育所に入ればよいではないかという話になるが、それもまた難しい。なぜなら、認可保育園に入れない割合は結構高いので、入れなかった人は皆、近所か駅前にある比較的条件のよい無認可保育所への入園を希望するからである。

そして比較的条件のよい無認可保育所もまた高倍率となり、そこから溢れる人がでてくる。そうして、やむを得ずに遠くの空きのある無認可保育所に満員電車で通うことになる。

それでも、この待機児童問題に詳しくない方は、それならば一旦仕事を辞めればよいだとか、育児休業を延長すればよいだという発想になるだろうが、それは現実的にはできない。

日本社会の場合は一旦仕事を辞めてしまえば、再度同程度のキャリアを築くことは難しい。出産前は正社員でも、出産後は契約社員として不安定な雇用になる場合がほとんどだ。それを回避するためにはなんとしても辞めるわけにはいかない。育児休業も長期でとればどういう扱いをうけるか分かったもんじゃないから、制度上存在しててもとても取得できる雰囲気ではないかったりする。

待機児童問題は、保育園不足問題のみならず、労働問題でもある。そもそも、本来ならば生まれて間もない赤ちゃんを他人に預けるなんてことはやりたくないはずだ。安心して1年以上育児休業がとれる社会であれば、保育園児の数は減り、入りやすくなるのだから。

もっとも、育児休業を取得した場合の給付金は雇用保険から支給されるので、会社側には負担はないのだが、その人が抜けた穴を補完するための雇用は会社側が負担することになる。それであれば会社側としては、育児休業を取得されると損をするのだから、積極的に取らせようとはしない。コンプライアンスがあるので渋々承諾している会社も多いだろう。

それではなかなか会社側も社会のために必要だという認識があっても、協力したがらない。その結果、子育てがやりづらく少子化進んでいるのだから、是正するのであれば、国から会社にも手厚い補助を出すようにするしかない。それが難しいのであれば、米国のように一旦職場を離れても、再就職しやすいような流動性の高い社会にするか、どちらかしかない。

いずれにしても、赤ちゃん(とその両親)にその負担がいってしまっている社会は望ましいものではない。

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