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少子化を加速させる"寄り道"が許されない社会


この国の労働市場は特殊だ。

新卒一括採用が主であり、終身雇用、年功序列は減少傾向にあるのかもしれないがまだまだ根強く残っている。転職すると年収が低くなることが多いし、一度失業状態に陥ったらそこからの再就職は難しい。

極論を言えば、この国におけるキャリア形成は、学校卒業時の一発勝負でほとんど決まる。また、そこから脱線してしまうと、もう同等以上のレールに乗ることは難しい。だから新しいことにチャレンジするための転職や起業に対するハードルが高い。

そのことと人口減少は一見何も関係がないように思える。しかし、その一発勝負で脱線がほとんど許されない社会が、実は子どもを設けくくし、それが人口減少に深く影響を及ぼしている。

もし職場でパワハラを受けていたとする。パワハラに対して改善するように働きかけられればよいが、その問題に対処しようとしない職場もある。そうなるとそこから離れるしか方法がない。

しかし転職したくても、現在の転職市場では年齢制限が引っかかりこれまでのキャリアを活かせない。収入面も減少することが一般的ということであれば、退職を躊躇してしまうことが多い。

それでも身一つだったら、自分が食えてればさほど問題はない。パワハラを耐え凌ぐよりも収入が減るほうがまだマシだ。なぜならお金は快適に過ごすためのツールに過ぎないのだから、よほどの大金でない限りはパワハラによるストレスをカバーできない。

しかしそれが子どもなどの扶養者がいるとなると話は違ってくる。現代社会においては子どもは成人するまで親に負担をかけ続ける。昔のように家業の手伝いをするケースは稀だ。子どもがいることで経済的負荷がかかるので、生活に余裕がなくなっていく。 

すると収入減がたちまち生活困難に直結する。転職先が見つからずにアルバイトで当面を凌ぐことも、独り身だったら生活水準を落とせばなんとかやっていけるところが、扶養者がいる場合は生活自体が立ち行かなくなる。

このように硬直化している労働市場を前提としてまともに人生のリスクマネージメントを行うと、子どもは設けない方がよいということになる。実際に雇用が不安定な契約社員などの人は子どもを設ける割合が少ない。彼らは子育てを放棄しているわけではなく、まじめにリスクマネージメントを行っているだけだ。

現在の日本社会においては、子どもなどの扶養者が増えることで、その人の「リスク許容度」が少なくなり、一般的には収入減につながるため休職・退職・転職は難しくなる。それは子どもに対する社会保障制度の手薄さもあるが、労働市場の多様性のなさから、人材の流動性が確保できていないことが原因となっている。

他のOECD諸国でも、失業状態が望ましいとは思っていないだろうが、この国ほど絶望的な状況とは捕らえられていないことは、中高年男性の自殺率が物語っている。ダイバーシティという言葉が、人種の多様性だけではなく、人材の流動性にもつながって欲しい。

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